ダーウィンは、今日の学者を悩ませつづける問題をもうひとつ突き止めていた。実生活では、人間は近縁や遠縁の者だけでなく、血縁関係のない人をも助ける――生物学の見地からは、遺伝的共通性がないので、そんな利他的な援助は自分の適応度にとってコストが高いとしても。すると、こうした血縁関係のない受益者からなんらかの形でほぼ同程度の見返りがないかぎり、あるいは何かほかの種類の「補償」でもないかぎり、そうした行動をとる個人は、みずからの適応度を下げて相手の適応度を挙げていることになってしまう。端的に言って、進化が教えてくれることはあまりにも明白だ。理論上、利他行動を避ける身内びいきの者は利他行動をする者より優位に立てるので、寛大さは血縁関係のなかに限られるはずなのである。(『モラルの起源 道徳、良心、利他行動はどのように進化したのか』クリストファー・ボーム:斉藤隆央訳、長谷川眞理子解説)

フランス・ドゥ・ヴァール