1930年代に少年期を過ごした日本人にとって、世界は今とはまったく異なるさまに映じていた。狭い日本列島には閉塞感はなく、日本は台湾と朝鮮の支配者であり、1931年には満州の広大な空間と鉱物物資をわがものとしていた。そして1937年以降は中国沿岸全域が日本に押さえこまれていた。
 強い国が弱い国を併合し、なおかつ何の責めも受けないのが普通であった時代のことである。こうした行為はよこしまな不道徳な行為であるとか、世界が植民地時代から移り変わりつつあるなどと考える日本人はほとんどいなかった。私自身、日本が世界を――少なくともアジアを救済しているという誇りを抱きつつ大きくなった。
(『チベット偽装の十年』木村肥佐生〈きむら・ひさお〉:スコット・ベリー編:三浦順子〈みうら・じゅんこ〉訳)

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