「では、自ら死を選ぶことは悪いことではないのですね」
「善悪を言うのは、意味がない。それは人の一時の判断で、なんら確かな根拠はない。しかし、友よ。人は自ら死ぬべきではない。たとえ、それが悪いことでなくても、その人にとって生きることが死ぬことよりはるかに辛(つら)いことだとわかっていても、自ら死ぬべきではない」
「それはなぜですか? 師よ、なぜそうなのですか?」
「なぜと問うてはいけない。理由を求めてはいけない。理由はないのだ。これは決断なのだ。友よ、君は自ら死を選んではいけない」
(『老師と少年』南直哉〈みなみ・じきさい〉)