『史記』のなかで、司馬遷は幾多の金言名句を吐いているが、その一つに、「死するは難(かた)きにあらず、死に処するの難きなり」というのがある。――死に処して生きてゆくことのほうが死ぬことよりずっと難しいのだ、というほどの意味であるが、これこそは、司馬遷ならではの実感に裏打ちされた名言であった。生きながらえる道を選んで以来、わが胸ふかく刻みつけられた彼の哲学でもあった。(『司馬遷 起死回生を期す』林田慎之助)