造化が人の子を育てる時に最も意を用いているのは人らしい情を育てることである。人本然の情は他(ひと)が喜んでおれば嬉しく、他が悲しんでおれば悲しいのである。「可哀そうに」というのは人本然の心である。然しこれが充分よくわかるようになるのは小学4年の終りである。
 人の子の生い立ちをよく見るに、生まれて3カ月間は「懐しさと喜びの世界」に住んでいる。また生後2年6カ月位いは自我のない世界に住んでいる。これを童心の季節というのである。そして「可哀そうに」ということが本当によくわかるようになるのは前にいったように小学4年の終りである。
(『昭和への遺書 敗るるも またよき国へ岡潔〈おか・きよし〉)