世界を動かすものは常に悪党たちであり、悪人の論理、悪党の戦略哲学を知らずして、国際的な活動はできない。中世の軍記物に「河内に楠木という悪党ありて」と述べているが、足利尊氏を相手に健闘した楠木正成は、当時としては珍しいほどの戦略哲学を持った「したたか者」であったので、東国の武士団を相手にあれだけの活躍ができたのである。そして討死する時も、「罪業深き悪念なれども、七度人間に生まれ変わって朝敵を滅さむ」といい残し、自己の正統性を後世の大衆に浸透させるだけの心理工作まで残していった。(『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か倉前盛通〈くらまえ・もりみち〉)