作家の小田実氏は朝鮮総聯の手引きで訪朝し、77年1月から雑誌『潮』に「『北朝鮮』の人びと」を連載したが、その中で何度も公式視察を離れて、あてずっぽうに「なだれこみ」取材をしたと誇らしげに書いている。しかしこの取材も北朝鮮側が巧妙に仕組んだヤラセである疑いが強い。小田氏は「テレビはどこの家にももっているだろう。冷蔵庫もたいていの家にはあった」と書いているが、小田氏の見た家は特権階級である党幹部などの家ではないのか。亡命者の話では70年代では、平壌を除く地域では一般家庭で冷蔵庫は無論、テレビを持っているのは特権階級の家だけだった。
 小田実氏の北朝鮮ルポは、北朝鮮をいたく満足させたらしい。77年1月、北朝鮮から朝鮮総聯に伝達された「77年度総聯の事業方針」の中に「小田実のような人物を2~3名工作獲得すること」との項目があったという。
(『北朝鮮利権の真相 「コメ支援」「戦後補償」から「媚朝派報道」まで!野村旗守〈のむら・はたる〉編)