アインシュタインの「神はさいころを振らない」という有名な言葉は、このホテルで口にされた。ボーアの反応は、世の掟を定めるのは科学の負うべき役目ではないという科学者たちの大いなる挫折感を、正面から見据えたものだった。「アインシュタインよ、神ななさることに注文をつけるな」とボーアは言い放った。
 ふたりとも、この論争に満足な決着を見ないまま世を去った。
(『まだ科学で解けない13の謎』マイケル・ブルックス:楡井浩一訳)
 私にも多少意外だけれども、彼について書くべきことは大体つきてしまった。サーバーはあいかわらず、といっても近頃はますます、歩き方ものろくなり、手紙の返事も書かなくなったり、小さい物音にもビクつくようになった。過去10年間、彼はコネティカット州の町から町へと落ちつきなく移り歩き安住の地を求めてさまよっている。枯野希望は、古い植民地時代の建物で、ニレとカエデに取りかこまれ、モダンな住宅設備が一切完備し、谷を見おろす場所である。そこで彼は毎日を、『ハックルベリ・フィンの冒険』を読み、プードル犬を飼い、地下室にブドウ酒をたくわえ、ルーレットをして遊び、気まぐれな中年期までなんとかつき合いをともにしてきた少数の友人たちと雑談をして暮らしたいと企んでいる。(『虹をつかむ男』ジェイムズ・サーバー:鳴海四郎訳)
 私たちの心は、海に似ているではありませんか。それは、さまざまのものを中に蔵して測りがたい深みをもった、さだかならぬ塊です。蒼く不断にゆれて、潮騒(しおざい)の音をたてています。夜に、昼に、あらあらしく嘆いたりやさしく歌ったりしています。しかし、その底に何がひそんでいるのかは、自分にもよく分りません。その潮騒にじっと耳を傾けてききいると、その深みからつたわってくるのは、われらの胸の鼓動のひびきばかりです……。(『精神のあとをたずねて竹山道雄
 布教インペリアリズムは、不幸な異教徒を力をもって改宗させて救おうとする、人道的な使命感にもなった。自分の文明をおしつけることが、義務だった。日本にきて開国を強要したアメリカ人も、そう考えていた。いまのフランス人のアフリカに対する意見をきくと、この考えがいかに根深いかにおどろかされる。
 説教する人道的な征服者――われわれは、被占領中に、マッカーサー元帥にその俤を感じたものだったが……。
(『剣と十字架 ドイツの旅より竹山道雄
 自転車のサドルなどパーツが輪行袋から出ているというのもルール違反だ。規定の大きさ内で、自転車の一部が露出していないことというのも鉄道会社のルールとなっている。(『ロードバイクツーリング 完全ガイド』バイシクルクラブ編集部編)

ロードバイク
 ところが夜中に彼は、絶叫をあげて立ちあがって半ば醒めた。おそろしい夢を見たのだった。
 夢は、夢のようにはかなく消えて無くなるものだが、この夜の夢はキアラがくりかえしくりかえし考えてみたので、隅々まではっきりと残った。彼が幼いころにスペインで見たヒエロニモス・ボッシュの絵のようにあざやかだった。黙示録に記してある光景のようにすさまじかった。
 彼は夢みた。――ほぼ300年後に、物質をエネルギーに転化するという、デウスの創造の秩序を根底から破壊することが行われる。キリスト教はそれに対して無力である。ただ祈っているだけである。むしろ、それを発明した者共を、何か秘蹟を実現してみせた者として讃美する。デウスの力はかくのごとく合理的には判断できないものであると……。
(『みじかい命竹山道雄
 基本フォームを作る上でのポイントは、肩甲骨を開くこと。(『いちばんやさしいロードバイク メンテナンス&乗り方完全ガイド 専門店のプロが教える快適なライディング・メンテナンスのコツ・最適なチューンナップ』満生文洋〈みついき・ふみひろ〉監修)

ロードバイク
 フロー状態では、目の前の作業への集中が高まり、それ以外のことはどこかに行ってしまう。行為と意識がひとつになる。時間が飛ぶように過ぎる。自己意識が消え去る。そしてパフォーマンスは天井知らずに高まる。
 この経験が「フロー」と呼ばれるのは、その最中には流れ(フロー)のような感覚を経験するからだ。フロー状態にあると、ひとつの行為や決断が、次の行為や決断へと、やすやすと流れるように切れ目なくつながっていく。フローにある人は、ものすごい勢いで問題解決をおこないつつ、極限のパフォーマンスの川に押し流されていくのだ。
(『超人の秘密 エクストリームスポーツとフロー体験』スティーヴン・コトラー:熊谷玲美訳)
 台所の流し台の前に、母はいた。
「お茶だよ。マーの分も淹(い)れたからね」
 丸盆に二つの湯呑(ゆの)みを載せ、母は私の横を過ぎていく。私は流し台の周囲に視線をめぐらせ、何も問題がないことを確認してから座敷に戻った。
「お父さんの分も淹れようと思ったんだけど、あの人、いないんだよ。出かけたのかね」
「さあ。便所だろ」
 父は30年も前に自殺していた。
 そのことで、警察が何度もここへ話を訊(き)きに来たことも、母はきっともう忘れているのだろう。
(『光媒の花』道尾秀介)
 加村一馬さん、57歳。昭和21年8月31日、群馬県の大間々町で生まれた。8人きょうだいの4男坊だった。両親のたび重なる折檻に耐え切れず、13歳で家出をし、後を追ってきた飼い犬のシロと足尾鉱山で獣や山菜を採って空腹を満たしながら生きる生活を選んだ。以来43年間、栃木、新潟、福島、群馬、山梨の山中などを転々としてきた。人里離れた山の洞窟で、ときには川っぺりで、ときには町でホームレスをしながら人とかかわることを避けて生き抜いてきた。(『洞窟オジさん』加村一馬〈かむら・かずま〉)
 公明党が調査・研究費を毎年支出し続けている謎の調査会社がある。東京都新宿区の「JTC」なる会社がそれだ。ただ、政治資金収支報告書から分かるのはそれくらいで、インターネット上にホームページは見当たらず、「104」に訊いても電話番号が分からない。支出が始まったのは2006年7月28日。多い年には総額7463万円余りにも上る。それまで数百万円程度だった公明党の調査・研究費はJTVとの取引開始で激増した。(高橋篤史)『池田大作と暴力団西岡研介、乙骨正生〈おっこつ・まさお〉、森功、山田直樹、他

創価学会
 距離に対する制限時間は次の通り。

・200km:13.5時間
・300km:20時間
・400km:27時間
・600km:40時間
・1000km:75時間
・1200km:90時間

(『ブルベのすべて』鈴木裕和)

自転車
 その昔ツール・ド・フランスは、約2500キロを6ステージで走ったという。コースは未舗装がほとんどで、自転車が壊れても自分で修理しないとペナルティを取られた。レースは徹夜で行なわれ、変速機も禁止だった。1日400キロ以上の道のりは、トップの選手でさえ15時間以上かかり、平均速度こそ違うが、その過酷さは想像しがたい。しかし、この信じがたい距離を信じがたい状況で走り切ることを実現させたのは自転車なのだ。その情熱は時代を超えて語り継がれ、より遠くへ、より速く走るために生まれたのがロードバイクだ。(『ロードバイクの科学 明解にして実用! そうだったのか!理屈がわかれば、ロードバイクはさらに面白い』ふじいのりあき)
 好きなタイプの男だ。服に頓着していない。体裁にこだわりすぎる連中は野心家に見えるが、空疎でもある。その男は話すとき、迫りくるものを見きわめようとするかのような遠い目をする。(『容疑者マイケル・ロボサム:越前敏弥〈えちぜん・としや〉訳)
 よし、つづけよう。15、18、21。
 速くてもよいところは速く、100万分の1インチ刻みで知りたいところはゆっくりと、ダイヤルをまわしていく。後ろでマンハッタンがそわそわと体を動かす気配がする。ぼくが片手をあげると、また静かになった。
 24。27。そう。ここだ。
 どうしてわかるかって?
 わかるからわかる。短いときは短い。ただそう感じる。
 実のところ、感覚を超えた何かかもしれない。硬い金属の小片が前回よりも髪の毛ひと筋ぶんだけ早く切れこみの部分にふれると、ぼくはそれを感じ、聞き、心で見ることができる。
(『解錠師』スティーヴ・ハミルトン:越前敏弥〈えちぜん・としや〉訳)