大塩平八郎が蜂起前に蔵書を売り払い、窮民に金一朱ずつの施(ほどこ)しを行ったことは、江戸でもよく知られていた。
「大塩が あまたの本を 売り払い これぞまことの 無ほんなりけり」
「ちょっと出て 颯(さ)っと引きたる 大塩が またも来るやと 跡部騒動」
橋本町の願人坊主が一文(もん)で売って歩く木版刷りの紙札(かみふだ)にも、大塩平八郎の反乱に関する落首(らくしゅ)が度々載せられた。大塩平八郎の人気は、日々困窮する江戸市中でも高まる一方で、平八郎を題材にした落首や替え唄の刷り物は格別によく売れた。
(『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉)