父は、事あるごとに「前後、左右、上下に注意しろ」と繰り返していました。外に出れば、危険はどこから来るか分からない。まさに「常在戦場」です。上から何が落ちてくるか分からないというのは、パイロットらしい立体的なものの考え方ではないでしょうか。
歩いていて角を曲がる時でさえ、「内側を曲がらずに、大きく外回りをしろ」というのです。死角には、どんな危険が潜んでいるか分からないからです。そして、ひったくりや暴漢から身を守るために、爪でさえ武器になるのだから、伸ばしておけとも言われました。
身の回りの道具一つをとってみても、そうでした。
父の口癖は、「撃てないピストルはただの鉄くずだ。いつでも撃てるようにしておけ」。よく使う道具は、いつでもすぐに手に取れるように一つの箱にまとめ、手近な場所に置き、常に手入れを欠かしませんでした。それどころか、さらに使いやすくするため加工さえする徹底ぶりでした。
(『父、坂井三郎 「大空のサムライ」が娘に遺した生き方』坂井スマート道子)
坂井三郎