暗号の発展史には、“進化”という言葉がぴったりとあてはまる。それというのも暗号の発展過程は、一種の生存競争と見ることができるからだ。暗号はたえず暗号解読者の攻撃にさらされてきた。暗号解読者が新兵器を開発して暗号の弱点を暴(あば)けば、その暗号はもはや役に立たない。その暗号は絶滅するか、あるいはより強力な暗号へと進化するしかない。進化した暗号はしばらくのあいだ生き延びるが、それも暗号解読者がその弱点を突き止めるまでのことである。このプロセスが繰り返されるのだ。そのありさまは、伝染病の細菌株が直面する状況によく似ている。細菌が生き延びるのは、その細菌の弱点を暴き、殺してしまうような抗生物質が発見されるまでのことである。細菌が生き延びて増え栄えるためには、なんとか進化して抗生物質を出し抜くしかない。(『暗号解読』サイモン・シン:青木薫訳)
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