この小説(『存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)』ミラン・クンデラ)の魅力は、ストーリーにあるのではない。そうではなくて、むしろ、とめどもない脱線、挿入された多くの断章、流れる重層的な時間。また、ソ連軍の侵入など残酷な歴史を背景にした一回限りの生に息づかい、永遠に未完成を運命づけられた人間の愚かしさと希望。それらの織りなすものが、われわれの心を惹きつけるのだ。(『知の百家言』中村雄二郎)