『孟子』の内容はひと口にいうなら、要するに道徳主義(モラリズム)の強調である。そして、その道徳は、孟子の意識では、大昔の理想的な帝王である
堯(ぎょう)・
舜(しゅん)からの伝統で、近くは
孔子によって大いに発揚された由緒の正しいものであった。しかし、それにもかかわらず、それは当時の一般にはうけいれられない運命にあり、いわば時勢に抵抗するものとなった。つまり、孟子の生きた時代は、
道徳というような「迂(まわ)り遠い」ものよりは、「富国強兵」のための現実的な施策をこそ、痛切に求めていたのである。(『
孟子』吉川幸次郎監修、
金谷治)