(殷の紂王が)象牙の箸で食事をするようになれば、それまでの粗末な土器の茶碗では物足りなくなり、きっと玉(ぎょく)で作った食器を使うようになる。玉の食器を使うなら、その中に入れる食品もマメのスープなどの質素なものではなく、贅沢で珍奇な食品になるだろうし、そうなれば次にはそれを食べるときの服装にもきっと凝(こ)りだすだろう。また食事をする場所も、わらぶきの家ではなくて豪華な宮殿で、ということになるだろう。箕氏(きし)はそう考えて、この象牙の箸は単に立派な食事用具というだけにとどまるものではなく、最終的には莫大な浪費と国家の破滅につながる、諸悪の根源であると考えたのである。(『漢字の字源』阿辻哲次)
箕氏の憂い