比較認知科学というのは、人間とそれ以外の動物を比較して、人間の心の進化的な起源をさぐる学問のことである。
人間の体が進化の産物であるのと同時に、その心も進化の産物である。いったんそう理解してしまえば、教育も、親子関係も、社会も、みな進化の産物であることがわかる。チンパンジーという、人間にもっとも近い進化の隣人のことを深く知ることで、人間の心のどういう部分が特別なのかが照らしだされ、教育や親子関係や社会の進化的な起源が見えてくる。それはとりもなおさず、「人間とは何か」という問いへの一つの解答だろう。
(『想像するちから チンパンジーが教えてくれた人間の心』松沢哲郎)