私たちの心は、海に似ているのではありませんか。さまざまのものを中に蔵して、測りがたい深みをもった、さだかならぬ塊です。それは蒼く不断にゆれて、潮騒の音をたてています。夜に、昼に、あらあらしく嘆いたりやさしく歌ったりしています。しかし、その底に何がひそんでいるのかは自分にもよく分かりません。その潮騒にじっと耳を傾けてききいると、その深みからつたわってくるのは、われらの胸の鼓動のひびきばかりです……。
ただ、こうした心の海からは、ときどき思いもかけぬものが漂って浮びあがってきます。
(『竹山道雄セレクション IV 主役としての近代』竹山道雄:平川祐弘編)