裕一は唖然としていた。死のうとしている人間の心は、生と死の狭間でこんなにも簡単に動揺するものなのか。必死になって、福原にかけてやる言葉をひねり出そうとした。だが、何と言ってやればいいのか。自殺につながる直接の原因は何か。親を騙して進学させてもらった罪悪感か。周りに合わせられない疎外感か。東京暮らしになれない劣等感か。勉強する気も起こらない怠惰な自分への無力感か。
おそらくそのすべてだ。一つ一つの悩みは小さいのに、全部が複雑に絡み合って福原を死に追いやろうとしている。
(『幽霊人命救助隊』高野和明)