軽トラックとは、こんな自動車である。
それは普通に走る。そう言うと凡庸なクルマだと蔑んでいるように捉えられるかもしれない。だが現代において、普通に走ってくれる自動車は稀なる存在なのだ。自動車雑誌を飾る新型車の多くは、眩しいブランドと目を剥くような値札を掲げる輸入車を含めて、TVのバラエティ番組で騒ぐ若手芸人や自称アイドルのように姦しく浅薄な自己主張をするだけで、その実、落ち着いて真っ直ぐ走ることも叶わないおかしな機械ばかりになってしまった。確かな機械への信頼感とともにその辺の道を穏やかに走ろうとしても、情緒不安定な思春期の中学生の如くこれを拒むクルマのいかに多いことか。そんなときに軽トラックに乗ると思う。ああ、自動車とはこういうものでいいのだ、本来こういうものであるべきなのだ、と。
(『軽トラの本』沢村慎太朗)