我が國民には潔いこと、あつさりしたことを好む風がある。櫻の花の一時に咲き一時に散る風情(ふぜい)を喜ぶのがそれであり、古の武士が玉とくだける討死を無上の誉としたのがそれである。日本人ほどあつさりとした色や味はひを好むものはあるまい。あつさりとしたこと、潔いことを好む我が國民は、其の長所として廉(れん)恥を貴び、潔白を重んずる美徳を発揮してゐる。しかし其の半面には、物にあき易く、あきらめ易い性情がひそんではゐないか。堅忍不抜あくまでも初一念を通すねばり強さが缺けてはゐないか。こゝにもまた我々の反省すべき短所があるやうである。我が國民の長所・短所を数へたならば、まだ外にもいろいろあらう。我々は常に其の長所を知つて、之を十分に發揮すると共に、又常に其の短所に注意し、之を補つて大國民たるにそむかぬりつぱな國民とならねばならぬ。
尋常小學 國語読本巻十二終
(『図説・日本人の国民性』林知己夫〈はやし・ちきお〉、西平重喜〈にしひら・しげき〉、鈴木達三〈すずき・たつぞう〉)