弓削〈ゆげ〉は、あきれたような顔になった。
「変人だという噂は本当だったのですね」
「私は自分を変人だと思ったことはありません」
「とにかく、降格人事が繰り返されることがあっては損をなさるだけだと申しているのです」
「人事に損も得もないでしょう。どこに行っても、私は自分が正しいと思うことをやるだけです」
「不思議ですね」
「何がですか?」
「話をしているうちにだんだんと、あなたが本気でそうお考えのような気がしてくるのです」
「言ったはずです。本音です」
 弓削は、毒気を抜かれたような顔になった。
(『去就 隠蔽捜査6今野敏〈こんの・びん〉)