私たちが知っていた日本の文学とはこんなものではなかった、私たちが知っていた日本語とはこんなものではなかった。そう信じている人が、少数でも存在している今ならまだ選び直すことができる。選び直すことが、日本語という幸運な歴史をたどった言葉に対する義務であるだけでなく、人類の未来に対する義務だと思えば、なおさら選び直すことができる。
 それでも、もし、日本語が「亡びる」運命にあるとすれば、私たちにできることは、その過程を正視することしかない。
(『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』水村美苗〈みずむら・みなえ〉)