陳蕃(ちんばん)は自室でくつろいでいた。庭はというと、草はのびほうだいでまことにきたならしい。そこに父の友人で薛勤(せっきん)という者がやってきて、ちらりと庭に目をやってから、陳蕃にむかって、
「孺子(じゅし)よ、庭の掃除をして賓客を待つものだぞ」
と、叱るようにいった。すると陳蕃が、
「大丈夫(だいじょうふ)の処世というものは、天下の掃除をおこなうものであって、家の掃除などはするものではありません」
と、答えたので、薛勤は15歳の童子に清世(せいせい)の志(こころざし)があることを知り、ふしぎにおもったという。
(『三国志』宮城谷昌光)