鮎太は、この時、何か知らないが生れて初めてのものが、自分の心に流れ込んで来たのを感じた。今まで夢にも考えたことのなかった明るいような、そのまた反対に暗いような、重いどろどろした流れのようなものが、心の全面に隙間(すきま)なく非常に確実な速度と拡がり方で流れ込んで来るのを感じた。不思議な陶酔だった。(『あすなろ物語井上靖