これに対して、ミレーが描いたのは、家族や農民など、解釈するものではなく現実に存在する人々の姿だった。つまり、自らも幼い頃から過酷な労働を体験して育ったミレーは、美術アカデミーが評価する歴史画や宗教画に登場する様式化された人間像を追求することよりも、懸命に生きる生身の人間を描くことのほうに芸術的な価値を見出したのだ。そして、この点が当時としては革新的だったわけである。(『誰も知らない「名画の見方」高階秀爾