その際、かき消された戦勝国としての連合国の存在と、占領軍としてのアメリカ合衆国の存在は、日本の憲法体系からは隠されたままとなった。むしろアメリカの存在について語ること自体がタブー視され、憲法外の議論であるばかりか、違憲であるとさえ言われるようになった。実態として日本の国家体制の根幹を形成するものとして確立された日米安全保障条約は、しかしそのまま憲法の枠の外に存在するものとされた。憲法体制と安保体制という二つの国家体制の柱が、お互いを十分に意識しつつ、相互に無視しあうような「表」と「裏」の関係を形成する状態が生まれた。(『
集団的自衛権の思想史 憲法九条と日米安保』
篠田英朗〈しのだ・ひであき〉)