私はよく思います。――いま新聞や雑誌をよむと、おどろくほかはない。多くの人が他人をののしり責めていばっています。「あいつが悪かったのだ。それでこんなことになったのだ」といってごうまんにえらがって、まるで勝った国のようです。ところが、こういうことをいっている人の多くは、戦争中はあんまり立派ではありませんでした。それが今はそういうことをいって、それで人よりもぜいたくな暮らしなどをしています。ところが、あの古参兵のような人はいつも同じことです。いつも黙々として働いています。その黙々としているのがいけないと、えらがっている人たちがいうのですけれども、そのときどきの自分の利益になることをわめきちらしているよりは、よほど立派です。どんなに世の中が乱脈になったように見えても、このように人目につかないところで黙々と働いている人はいます。こういう人こそ、本当の国民なのではないでしょうか? こういう人の数が多ければ国は興(おこ)り、それがすくなければ立ち直ることはできないのではないでしょうか?(『
ビルマの竪琴』
竹山道雄)