「文明とか人間性とかいうものは、これまで通念となっていたものとは、よほど違ったものではないのだろうか。それであのような不可解なことが起ったのではないだろうか?」――私はしばしばこういう疑念をもつ。
 あのような不可解なことというのは、ナチスによるユダヤ人殺戮である。これは言語に絶する残虐行為だった。現代には、このほかにもソ連の裁判や中共の洗脳のようなことがあり、いずれも非人間的な非合理的な、むかしからの文明の概念を覆すような現象である。後世になったら、おそらくこれが20世紀中葉の人間のあり方の一つの特色だったとされるだろう。
(『西洋一神教の世界 竹山道雄セレクションII竹山道雄平川祐弘編)