そう考えるならば、東京には100年前の建物がほとんどないからといって、この都市はすでに過去の顔を失な(ママ)いアイデンティティを喪失したとあきらめるのは、早計に過ぎるということになる。むしろ東京では、変化に富む立地条件と、その上に江戸以来つくられた都市の構造とが歴史的、伝統的な空間の骨格を根底において形づくっているのであり、それと都市の中身を構成する新旧織り混ぜた種々な要素とが巧みに混淆し、世界にも類例のないユニークな都市空間を生み出しているといえるのである。(『東京の空間人類学』陣内秀信)