春秋時代の強国である呉(ご)の君主として覇(は)をとなえることになる闔廬(こうりょ)に、天才兵法家孫武(孫子)が仕えるときに、
――将は軍に在(あ)りては、君命をも受けざる所有(あ)り。
と述べた。
将軍に任命されて軍を率いるようになってからは、たとえ君命に従わないことがある。すなわち戦場は千変万化の場であり、戦場をまのあたりにしていない君主の命令に従っていては、勝機をのがすばかりか、あずかっている兵を敗北によってそこなうことさえある。この思想は後世の軍事主導者にも享受(きょうじゅ)された。
(『香乱記』宮城谷昌光)