実は、中世には私たちが考えるような「国家」はありませんでした。確かに、国はありますし王もいます。しかし、それらを上から支配していたのはキリスト教の長たるローマ教皇でした。フランスという国はあっても、フランスを動かすのは王ではなく教皇です。つまり、国の中心が不透明なのです。そうなればフランス王の支配領域、つまりフランスという区の領域(国境)も曖昧なものになってしまいます。要するに、国家の概念は、その中心も領域も曖昧でぼんやりとしたものでしかなかったのです。人々も自分がどこの国に所属しているのかはっきりとは意識していません。中世の人に「あなたはどこの人ですか」と問えば、荘園や教区の名を挙げるでしょう。もっと大きな枠組みで問えば「私はクリスチャンです」と答えるでしょう。中世という時代は、国が分立しているというより一つのキリスト教世界ととらえるべきです。しかし、キリスト教の時代は、教皇による十字軍の失敗によって崩れはじめます。(『歴史の見方がわかる世界史入門 いまにつながるヨーロッパ近現代史』福村国春)

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