情報は取るものと考えるのは初歩の発想であり、基本はギブ・アンド・テイクの交換関係だから、提供するものがなければ何も得られないし、相手よりも多くのことを知っていないと、真に価値ある情報は摑み取れないのである。
 結論的に言うと、実力のバランス関係で相手よりも強ければ、ポテンシャルの差で吸い取れるのが情報であり、価値のある情報は相手の側が持ってくるし、知的に追い詰めて本音を叩き出すためにも、信頼される立場を確保することが肝心である。
(『インテリジェンス戦争の時代 情報革命への挑戦藤原肇

インテリジェンス
 この不安定を使いこなすことこそ、武術的に身体を使いこなす第一歩だ。グラリと前後左右に倒れる力を利用すれば、手だけではなく体全体で刀が抜ける。よく考えれば当然だが、人間が2本の足で直立する姿勢というのは、常に「すぐ使える位置エネルギーをプールしている」姿勢でもあるのだ。(『実践!今すぐできる 古武術で蘇るカラダ甲野善紀監修)
 人間の進化とともに脊椎が水平から垂直へ変化してきたなかで、椎間板はより重い重量を支えられるように適応し、衝撃を吸収したり柔軟さを保つために、脊椎にはいくつかの彎曲(わんきょく)が形成されました。(『自分で治せる! 腰痛改善マニュアル』ロビン・マッケンジー:銅冶英雄、岩貞吉寛訳)
 太陽から地球へのエネルギーの流れを、一つのシステムの中での自然の仕組みとして捉え、起きている一つ一つの現象を、システム全体の中でのエネルギーが「姿を換えていく過程」として扱うことが大事なのです。(『太陽と地球のふしぎな関係 絶対君主と無力なしもべ』上出洋介)
 すなわち、ここで挙げた日本が直面する数々の危機的状況は、決して一過性のものでもなければ、個々の無関係な危機の集積でもない。日本が文明の衰退期にあるからこそ、同時多発的に噴出してくる「歴史的危機」ではないのか、という観点から考えてみる必要があるのかもしれない。それは、いわば「戦後文明」とも呼べる、この数十年の日本社会の生き方としての「危機」なのではないか。(『国民の文明史中西輝政
 要するに、「A級」「B級」といった犯罪類型は裁判所憲章第五条の(a)項、(b)項にあたるというだけのことである。著者が前著『東京裁判の国際関係』でも指摘したように、「級」なる呼称は class の翻訳だが、犯罪の【性質】上「C級よりもA級のほうが重大だ」といったタテの序列関係を示すわけではない。(『東京裁判』日暮吉延)

東京裁判日本近代史
 一般に返事は「ハイ」と答えよ、と教育されてきました。しかし【「ハイ」という返事には「理解した」という意味の他に、相手に対する「服従」や、上下関係における「下の立場」を形成させる動きがある】のです。
 だから、話をリードしなければならない立場にいる営業マンが、話の合間に「ハイ」を連発していると、いつの間にか相手に従う立場になってしまい、これでは契約をとるどころではありません。
 つまり、クロージングを極めて難しくしてしまうのです。
 では、営業マンは、どのような相づちをすればいいのでしょうか?
 それは……

「ええ」という表現にするのです!

(『人にはちょっと教えたくない「儲け」のネタ帳岩波貴士
 数学者は他の科学者と異なり、研究器具を必要としない。(『放浪の天才数学者エルデシュポール・ホフマン:平石律子訳)

ポール・エルデシュ
 つまり、創発現象は「見えざる手」のようなものの助けがなくとも生じることができる。それどころか、複雑系の構成要素は、創発現象がひとりでに――まるで魔法でも使ったかのように――生じるような形に自らを自己組織化することができるのである。(『複雑で単純な世界 不確実なできごとを複雑系で予測するニール・ジョンソン阪本芳久訳)
 世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう。(『悲しき熱帯』レヴィ=ストロース:川田順造訳)
「出草」とはいわゆる首狩りのことである。これが宗教的観念にもとづく行為であり、敵の勢力削減を目的とする戦闘とは性格が異なった。「出草」の対象は敵に限られず、異種族でさえあれば、たとえ通行人でもかまわなかった。かつての高砂族の道徳や宗教において、「出草」がどれほど重視されていたかを示す例は多い。(『霧社事件 台湾高砂族の蜂起』中川浩一、和歌森民男編著)

台湾
「黙っていることは共犯である」(サルトル)『虚妄からの脱出 経済大国の没落と日本文化藤原肇
 水車が廻っている。なぜ廻るのだろう。
 もちろん、水の流れが水車を廻している。
 水は誰が流しているのか。いうまでもなく、高い所に降った雨が、重力にしたがって流れ下っている。
 なぜ雨が降るのか。
 太陽の熱で蒸発した水が空へ上がって雲になり、冷えてまた水となって地上へ落ちるのだ。水車を廻した水も、いずれ再び太陽エネルギーによって蒸発し、上空に昇って地上へ戻ってくる。
 水車は、太陽が廻しているのだ。
(『大江戸リサイクル事情』石川英輔)
 一般に幕府と広く呼ぶようになったのは、なんと江戸時代も末期になってからのことでした。しかし、歴史学ではこの言葉を借りて、鎌倉時代以降の武家政権の統治機構を統一して「幕府」と呼んでいるのです。(『歴史をつかむ技法山本博文
小室●リパブリックというと、日本人はすぐに共和国と訳したがるけれど、これがそもそも大間違いです。共和ということばは絶対君主としての王様の存在形式ではなく、リパブリックは王様がいるいないに関係がないのです。(『脱ニッポン型思考のすすめ小室直樹藤原肇
 宇宙の背後にあるこの精神的な存在を私が信ずるということは、一つの信仰です。この精神的な存在があるということの証明は、私にはできません。それが万能だとは思いませんし、それが宇宙をつくったのだということ、あるいは、この宇宙を動かし続けているのは、この精神的な存在だということもわかりません。私は、ただ人間性の精神的な側面で私が直接経験したことから、その存在を感じとるのです。(『未来を生きる トインビーとの対話アーノルド・J・トインビー若泉敬
「なるほど。よくある話だ。それを残虐行為と呼ぶ者もいれば、民間人への付随的被害と呼ぶ者もいる」(『カルニヴィア 1 禁忌』ジョナサン・ホルト:奥村章子訳)
 一見小心に見える丸顔の奥まった目には、死線を越えてきた者特有の、人は生死でさえも単に運不運でしかないことを知り尽くした静けさが潜んでいた。(『神無き月十番目の夜飯嶋和一

生瀬
 神話は、このようにしてつねに現実と重なり合うがゆえに、そこには時間がなかった。語部(かたりべ)たちのもつ伝承は、過去を語ることを目的とするものではなく、いま、かくあることの根拠として、それを示すためのものであった。(『漢字 生い立ちとその背景白川静
 エリカは、チョコレートでコーティングされたレーズンを舌の上にのせて味わうと、手の指先に、ぶつぶつした手ざわりを感じる。いつもの天気予報のアナウンサーの声を聞くと、視野の左すみに、さざ波のように揺れている紺色のものがいやでも見えてしまう。今日(木曜日)のことを考えると、その概念が、右肩近くの空間の特定の場所を占めているように感じられる。エリカの脳は、沿岸地域の気候に似ている――さまざまな要素が、その混じりあいを妨げる障壁が何もないため、たがいに作用しあうのだ。エリカの感覚や概念は、たがいに隔たりがなく、気候の流れのように流れ、融合する。(『脳のなかの万華鏡 「共感覚」のめくるめく世界リチャード・E・サイトウィックデイヴィッド・イーグルマン:山下篤子訳)
 とにかく日本軍は、失敗に懲りず、失敗から教訓を引き出さず、同じ失敗をまた繰り返すのである。補給の失敗でガダルカナルで惨敗し、ガダルカナル戦と前後して開始されたスタンレー山脈越えのポート・モレスビー攻略作戦でも、同じく補給の失敗で自滅し、のちのインパール作戦でも同じ失敗をまたやっている。アメリカ軍は、同じやり方で何度でも日本軍をたたきのめすことができた。というよりむしろ、日本軍がいつも同じやり方で勝手に自滅してくれたと言った方が当たっている。(岸田)『日本人と「日本病」について岸田秀山本七平

戦争
「なるべく早く投下しなくては」とトルーマンは焦りました。この新型爆弾の現実の威力を知りたいとも思っていました。ところが、日本がポツダム宣言をあっさりと受諾してしまえば投下のチャンスはまったくなくなります。そこで日本がすぐに受諾しないよう、当初はポツダム宣言の草案にあった「国体護持」の言葉をわざわざ削除して投下準備のための時間をかせいだのです。(『日本人の誇り藤原正彦

原爆日本近代史
 戦ったら勝たねばならない。戦って勝てば成功である。しかし孫子は「百戦百勝は善の善なるものにあらず、戦わずして人の兵を屈するが善の善なるものなり」と言っている。戦わないで勝つのが一番よい。戦えば、勝者といえども損害があり、とくに失った人命はいかなる戦勝によっても取りかえすことができない損失である。戦わねばならないと判断した場合でも、戦わないで勝つ方法をまず考えねばならない。目的は勝つことであり、戦うことはその手段にすぎない。勝つことさえできれば、何も損害を出してまで戦う必要はない。(『兵法孫子 戦わずして勝つ』大橋武夫)
 指先さえも見えない闇の中にいると、いろいろな感覚が研ぎ澄まされてゆく。視力を奪われる代わりに、触覚や聴覚や嗅覚が過敏になる。
 最も鋭敏になるのは聴覚だ。陽が沈む前は気が付かなかった音が四方から聞こえてくるようになる。薪をくべる音。炎が燃える音。水を飲み込む時に鳴る誰かの咽喉の音。鼾やオナラの音。誰かが寝返り打ってハンモックが擦れる音。何かをかき混ぜるような音。飛び交う蝙蝠(こうもり)の羽音。一筋の突風が吹いてきて大木が軋む音。雨の重さに耐えきれず、森のどこかで木が倒れる音。遠くの湿地で雄の蛙が雌の気を惹こうとして咽喉を鳴らす音。その蛙が蛇に襲われたか何かして、けたたましく叫ぶ音……。
(『ヤノマミ』国分拓)
中島梓●ただ着物というのは、着物だけじゃないんですよね。すべてと結びついている。

杉浦●立居振舞。

中島●立居振舞もさることながら、まず針が持てなければいけない。というのは、自分で半衿をかけなければいけないでしょう。もちろん自分で着られなければいけないというのもそうです。髪も自分でなんとかできなきゃいけないというのもある。あるいは手入れもできなきゃいけない。自分で洗い張りしろとまでは言わないけれども、少なくともそのくらいまめに手入れをしなければいけない。
 とにかくなにかといろんな文化と全部つながっている。だからその文化の型というのが、いまの日本の普通の文化とは非常に合わない。たとえば電車に乗っているんだって、歩きづらいとか、立っていると大変だとか、いろんなことがある。非常に広いものと結びついちゃっているから、広い範囲で受け入れられなくなってきているんじゃないかと思う。

(『江戸へようこそ杉浦日向子

江戸
 中国人が「街道」という語を見たら、多分「街の道」つまり市街地の中の道、と思うだろう。
 無論そうではない。「街道」は遠い地域を結ぶ幹線道路、ハイウエイである。
 もとは「海道」と書いた。海沿いの道、あるいは一部海路を含む道である。代表的なのが京都から東国(鎌倉など)へ行く道である。単に「海道」とも言い、東国へ行く道ゆえに「東海道」とも言った。海沿いでなくとも主要幹線道路は「海道」と言った。
(『漢字雑談』高島俊男)

漢字
 孫子は乱世におけるリーダーの心のもち方や必要な器量について述べた兵書なのです。『孫子』は、なぜリーダーの立場から書いたのでしょう。
 それは兵が凶器だということをよく知っていたからです。(『まんが 孫子の兵法』武岡淳彦監修・解説、柳川創造解説、尤先端作画、鈴木博訳)
 しかし20世紀初頭の発表当時は、あまりにも常識とかけ離れているため、学界ではほとんど理解されませんでした。「大陸が動くはずはない」とする当時の“正当的な”考えでは、二つの大陸に共通する化石の存在は、かつて両大陸が細い“陸橋”でつながっている時代があったからであると説明するのです。陸橋は二つの大陸をつなぐ細長い陸地や潮が引いて現れる島伝いの道のことで、それを伝って海を渡れない生物が移動したと考えるのです。(『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』中沢弘基)
 さらに重大だったのは、ソ連に通じていた「原爆スパイ」たちである。「マンハッタン計画」の内部からは二人の物理学者クラウス・フックスセオドア・ホール、および技術者のデイヴィッド・グリーングラスが、ソ連に多くの重要な機密の技術情報を伝えた。それは、通常のウランから高濃縮ウランを抽出するための複雑な過程、生産施設の技術的な図面、爆縮技術の工学的原理などである。この爆縮技術によれば、早期にプルトニウムを用いた原子爆弾の製造が可能になり、そもそもプルトニウムは高濃縮ウランよりも精製がはるかに容易なのであった。
 彼らがアメリカ原爆の秘密をソ連に漏らしたことで、ソ連は何年も早く、きわめて低いコストで核兵器を開発することができた。ヨシフ・スターリンは、スパイ活動によってソ連がいち早くアメリカの核兵器独占を破ったことから、初期冷戦でのアメリカとの対決において大変大胆な外交戦略がとれるようになったのである。
(『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア:中西輝政監訳、山添博史〈やまぞえ・ひろし〉、佐々木太郎、金自成〈キム・ジャソン〉訳)
 べつに、すべての軍服が、ファシズムに結びつくと思っているわけではない。
 しかし、あらゆる軍服の歴史を通じて、やはりナチス・ドイツの制服くらい、軍服というものの神髄にせまった傑作も珍しいようだ。あの不気味に硬質なシルエット。韻を踏んでいるような、死と威嚇のリフレイン。実戦用の機能を、いささかも損なうことなく、しかも完全に美学的要求を満足させている。
(『内なる辺境安部公房
 私はスプーンをもってマイクのようにハスケルに向けた。
「あなたはどうなんですか? 勘定書について、なにかコメントはありませんか」
(『突然の災禍ロバート・B・パーカー:菊池光訳)
 生きる意味は
 どこに落ちているんだろう。
 きれいに死ねる自信を
 誰が持っているんだろう。
 自分は風にのって流れていく木の葉か、
 でなければ、あんたが今
 くつの裏でかわいがった吸い殻ではないのか。
 存在なんてものにこだわっていたら、
 落ちていくよ。
『どこへ?』
 橋の下さ。
(『適切な世界の適切ならざる私文月悠光
 実際に、ビスマルクが生涯において、ブライヒレーダー家やロスチャイルド家と交わした書簡は1000通を超えている。ブライヒレーダーも毎日のようにドイツの政治情勢、軍事情報、金融情報をロスチャイルド家あてに報告していた。これらの手紙のやり取りから正確に読み取れるのは、ブライヒレーダーとロスチャイルドという力強い後ろ盾がなければ、ビスマルクはドイツの政界に身を置くことはできなかったし、ドイツの統一という偉業もなしえなかったであろうことだ。(『通貨戦争 影の支配者たちは世界統一通貨をめざす宋鴻兵

通貨戦争
水野●その価格決定権をアメリカが取り返そうとして1983年にできたのが、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート先物市場ですね。
 石油の先物市場をつくるということは、石油を金融商品化するということです。いったんOPECのもとへと政治的に移った価格決定権を、石油を商品化することで取り返そうとしたんですね。
(『超マクロ展望 世界経済の真実水野和夫萱野稔人
 過ちに気づいても改めない。それがほんとうの過ちだ。

 過ちて改めざる、これを過ちと謂う――『論語』衛霊公篇

(『中国古典 リーダーの心得帖 名著から選んだ100の至言守屋洋
 自分自身の存在がおびやかされているのになぜ他者にやさしくできるのだろう? 自分のお腹はペコペコなのになぜ他者の労をねぎらえるのだろう?(『地下足袋の詩(うた) 歩く生活相談室18年入佐明美
 カール・ヴィルムヘルムは実に紳士だった。数学者の天国があるとすれば、そこにある豪華なアパートの部屋はいくつか、この人がここを訪れたいと思ったとき、いつでも使えるよう、確保しておかなければならない。ガウス少年の才能を聞き及ぶと、公はガウスに会いたいと言った。(中略)公は人を見る目があり、この少年が気に入ると、死が二人を分かつまで、ずっとガウスを庇護し、安定した経済的支援を与えて、若いガウスが数学者、物理学者、天文学者としての長い、傑出した生涯に乗り出せるようにした。(『素数に憑かれた人たち リーマン予想への挑戦ジョン・ダービーシャー松浦俊輔訳)
 とくに説明する必要はないが、近代国家はひたすら軍備によってつくられた。(『戦争と資本主義ヴェルナー・ゾンバルト:金森誠也)
 冒瀆(ぼうとく)の印は私たちの中に永遠に刻まれ、それに立ち会ったものたちの記憶に、それが起きた場所に、これから語られる物語の中にずっと残るはずだった。(『休戦プリーモ・レーヴィ:竹山博英訳)
 この理論は、数学的に正確に表現するならば「指数関数的膨張モデル」ということになり、私が最初に提唱したときはそう呼んでいました。しかし、およそ半年後、グースは私とは独立に同じ指数関数的膨張モデルの論文を学術誌に投稿し、この理論に「インフレーション」と名づけました。命名の巧みさや宇宙の平坦性・地平線問題についての明解な記述から、いまでは「インフレーション理論」として世界的に流通するようになりました。(『インフレーション宇宙論 ビッグバンの前に何が起こったのか佐藤勝彦
 そして、その惑星がほどよく暖まるよう、近からず遠からずの距離で恒星の周囲を回転させたいと考えていることを説明した。さらに惑星を構成する各成分の、分量と必要経費を算出した見積もりを示した。いったい彼らの目的は何なのか? 種々の条件を勘案すると、その小さな球体には、きわめて興味深く、楽しい現象があらわれるらしかった。
 それはすなわち、生命。
(『神を見た犬』ブッツァーティ:関口英子訳)
 わたしは野生動物からなにか特定の生き方を学ぼうなどとは考えていない。(中略)けれども、無心ということを、身体感覚だけで生きる純粋さを、偏見動機なしで生きる気高さを、いくらかなりとも身につけることはできるだろう。イタチは必然に生き、人は選択に生きる。必然を恨みつつ最後にはその毒牙による愚劣な死を遂げる。イタチはただ生きねばならぬように生きる。わたしもそう生きたいし、それはすなわちイタチの生き方だという気がする。時間と死に苦もなく開き、あらゆるものに気づきながらなにものも心にとどめず、与えられたものを猛烈な、狙い定めた意志で選択する生き方だ、と。(『石に話すことを教えるアニー・ディラード:内田美恵訳)
 民族は国家を形成する核になり得るが、一方でまた国家は一体感のある民族、均質な国民を作ろうとする。アイヌ民族に同化を迫ったように、そこでは多数派を占める民族と他の民族との間に「抑圧-被抑圧」の関係が生じざるを得ない。(『面白いほどよくわかる世界の紛争地図 紛争・テロリズムから危険地帯まで、「世界の危機」を読み解く世界情勢を読む会編著)
 日常生活で、【秘密結社】と秘密組織の違いが特に問題となるような場面はまずない。しかし、社会学的にいうと、両者はまったく別の存在である。どう違うのか?
 最も大きなポイントは、【参入儀礼】の有無だ。秘密結社では入会する際に、参入儀礼と呼ばれる特殊な儀式を受けなければならない。従って、参入儀礼を執り行っていない組織は、どれほど秘密性が強くても、秘密結社と呼ぶことはできないのである。
(『面白いほどよくわかる世界の秘密結社 秘密のベールに隠された謎の組織の全貌有澤玲
 もともとナポレオンという人は計算がすきで作戦を立てるときも数学を使ったという。力学では物体の質量と速度をかけ合わしたものを運動量というが、彼はこの例にならって、部隊の人数と移動速度をかけ合わしたものを部隊の運動量として計算したという。騎兵の部隊などは人数は少なくても移動速度が大きいので、運動量は大きいわけである。(『数学入門遠山啓

数学
 ナポレオンラプラスに対して、神に言及することなくこの本をどうして書き上げることができたのかと不思議がったとき、この有名な数学者が、「閣下、私はそのような仮説を必要としなかったのです」と答えたように。(『神は妄想である 宗教との決別リチャード・ドーキンス:垂水雄二訳)

キリスト教科学と宗教
 神は、世界中のどの冷蔵庫の中身も知っている。
 神は、動いているどの機械の状態も知っている。
 神は、世界中の昆虫の1匹1匹がなにをしようとしているかを知っている。

 とはいえ、これらは、以下の三つと比べると、多少奇異に感じられる。

 神は、あなたが昨日だれと会ったかを知っている。
 神は、あなたが嘘をついているのを知っている。
 神は、私が悪いことをしたのを知っている。

 これがまったく文脈の問題だということに注意しほしい。

(『神はなぜいるのか?パスカル・ボイヤー:鈴木光太郎、中村潔訳)

科学と宗教
 他人を害する破壊的な行為には、力が必要です。力がない足りない場合は、力が内向きになって、ひきこもりになったり、自殺願望を引き起こしたりすることになります。「嫌な状況をぶち壊したい。他人を破壊したい。でも、できない」というとき、人間は自分自身を破壊してしまうのです。(『心は病気 役立つ初期仏教法話2アルボムッレ・スマナサーラ

仏教
 上座部大寺派の成仏伝承は、経典では主に四諦型三明説だったが、遅くとも5世紀初頭までには縁起型三明説に変化した。インドにおける諸部派の成仏伝承にも同様の変化が確認できた。経典や律蔵では四諦型三明説だったが、独立した仏伝作品では三明説に縁起を組み込み、縁起型三明説が成立している。縁起型三明説は上座部大寺派に固有の伝承なのではなく、部派を超えて、南アジアに広く流布した成仏伝承なのである。(『上座部仏教の思想形成 ブッダからブッダゴーサへ馬場紀寿

仏教
「夏のレトルトカレー、覚えているか?」
「あー、はい」
「あのレトルトカレーだってそうだろう。賞味期限は人が決めた基準だ。温めて食べて大丈夫だったらそれでいいじゃないか」
(『悪党 小沢一郎に仕えて石川知裕
 宗教はとりわけ、共同体のメンバーが互いに守るべき道徳規範を示し、社会組織の質を維持する。まだ市民統治機構が発達していなかった初期の社会では、宗教だけが社会を支えていた。宗教は、同じ目的に向けた深い感情的つながりをもたらす儀礼をつうじて、人々を束ね、集団で行動させる。(『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰ニコラス・ウェイド:依田卓巳訳)

科学と宗教
(富永)仲基の説は『出定後語』にまとめられているが、多数の仏教経典はブッダ一人が説いたものでなく、歴史的に順次に成立してきたものだというもので、近代の仏教学の方向を完全に先取りしている。それを基礎づける理論が加上説で、要するに時代的に後から出てくる説は、それに先立つ説に何らかの新しいことを付け加えることによって、自己の優越性を示そうとする、という考え方である。逆にいえば、新しいことが付け加わっている文献は、それがないものよりも時代的に新しく成立したということになる。(『思想としての仏教入門末木文美士
 なにが、ゴリラの姿を消してしまうのか。この見落としは、予期しないものに対する注意力の欠如から起きる。そこで科学的には、“非注意による盲目状態”と呼ばれている。(『錯覚の科学クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ:木村博江訳)

認知科学
 あれかこれがありさえすれば、幸せになれるだろうと信じることによって、われわれは、不幸の原因が不完全で汚れた自己にあることを悟らずに済むようになる。だから、過度の欲望は、自分が無価値であるという意識を抑えるための一手段なのである。(『魂の錬金術 エリック・ホッファー全アフォリズム集エリック・ホッファー:中本義彦訳)
 甲野師匠は、62キロの体重で、135キロの人でも持ち上げる。「いよっ、力持ち!」というのはシロートの考え。
「鎧(よろい)を想像してみてください」と師匠。「鎧は持つより、担いだほうが軽く、担ぐより、着るといちばん軽く感じるんです」
 鎧のごとく相手を「着る」。すなわち相手の体重を、こちらの体全体に散らせて受け止める。
(『古武術で毎日がラクラク! 疲れない、ケガしない「体の使い方」甲野善紀指導、荻野アンナ文)

介護
 自尊心という家の2階に住んでいる者たちは、階下に住んでいる者たちとは何の関係もないと主張する。したがって彼らは、2階に昇る秘密の階段があることを人に知らせたという点で、ラ・ロシュフコーを許さないのだ。(『月曜閑談サント・ブーヴ:土居寛之訳)
 1987年にアメリカの対日貿易戦略基礎理論編集委員会によってまとめられた『菊と刀~貿易戦争篇』というレポートがある。執筆者名や詳しい内容は公表されていないが、アメリカ・サイドから一部がリークされ、その日本語訳が出版されている(『公式日本人論』弘文堂)。
 この調査研究の目的は、日本に外圧を加えることを理論的に正当化することだった。そして結論として、外圧によって日本の思考・行動様式そのものを変形あるいは破壊することが日米双方のためであり、日本がアメリカと同じルールを覚えるまでそれを続けるほかはない、と断定している。つまり、自由貿易を維持するという大義名分のためには、内政干渉してでもアメリカのルールを日本に受入れさせる必要がある、と主張しているのである。
(『拒否できない日本 アメリカの日本改造が進んでいる関岡英之
「黄氏、商人は信義を重んじます。いちどとりきめたことは守らねばなりません。その信義からみれば、貴家の財の半分をさげわたすとは、虚言にひとしく、そういう虚言を弄されるかたが国の存亡にかかわる大任を果たせるはずがありません。この和氏(かし)の璧(へき)があろうがなかろうが、あなたさまは、ご自分の虚言によって身を滅ぼされるでしょう」(『奇貨居くべし宮城谷昌光
「与えられることになれた者は、その物の価値がわからず、真の保有を知りませんから、けっきょく豊かさに達しないのです」(『奇貨居くべし宮城谷昌光
 知識によりかかればかえって目がくもる。(『奇貨居くべし宮城谷昌光
「風にも道がある」(『奇貨居くべし宮城谷昌光
 うつむいてばかりいては一生天をみることができない。ときには身をそらし目をあげてみなければ、人は頭上にあるものがみえぬであろう。(『奇貨居くべし宮城谷昌光
「連続」を悪として「断絶」を善とするのは、革命史観の表れである。革命によって過去と手を切り、歴史を新規巻(ママ)き直しとし、一から出直すという考え方が基本にあるからである。(『国民の歴史西尾幹二

日本近代史