エリカは、チョコレートでコーティングされたレーズンを舌の上にのせて味わうと、手の指先に、ぶつぶつした手ざわりを感じる。いつもの天気予報のアナウンサーの声を聞くと、視野の左すみに、さざ波のように揺れている紺色のものがいやでも見えてしまう。今日(木曜日)のことを考えると、その概念が、右肩近くの空間の特定の場所を占めているように感じられる。エリカの脳は、沿岸地域の気候に似ている――さまざまな要素が、その混じりあいを妨げる障壁が何もないため、たがいに作用しあうのだ。エリカの感覚や概念は、たがいに隔たりがなく、気候の流れのように流れ、融合する。(『
脳のなかの万華鏡 「共感覚」のめくるめく世界』
リチャード・E・サイトウィック、
デイヴィッド・イーグルマン:山下篤子訳)