わたしは、書物とりわけ古文書に取り憑かれたとしかいいようのない、奇妙な暮らしをしている。古文書を解読して書いた最初の著作『武士の家計簿』もそのようななかでできた。毎日のように、薄暗い書庫のなかに入り浸り、汚い床に座り込んで、ほこりのなかで古書をむさぼり読む。食べるものも食べず寝るのも忘れて、この陶酔の時間に、はまり込んでいってしまったがために、あるときは書庫のなかで倒れ、とうとう図書館から救急車で病院に搬送されてしまったこともある。しかし、これが好きなのだから仕方がない。(『日本人の叡智』磯田道史)
日本近代史