私は気化させたガソリンを連続的に爆発させて、燃えかすと爆音を世間に叩きつける、
 私は前後ふたつの車輪を意のままに回転させて、世に満つくだらない不文律を蹴散らす、
 私は無意味な高速がもたらす【がき】染みた示威行為によって、進退極(ママ)まった中年男を悲しみのどん底から救い、陶然と酔わせる。

 私にしがみついて疾駆する者は、自ずと他律的に振舞うことをやめるのだ、
 私と共にある者は、何事にも怯(ひる)まず、飯代に事欠く立場さえすっかり忘れてしまう、
 私といっしょに雲を霞(かすみ)と遁走する者は、私がその潜在意識とやらを充分に汲み取って、ひと思いに死なせてやろう。
 むろん独りで死なせはしない。

(『見よ 月が後を追う丸山健二