現在の私は、もう桂離宮という権力にあやつられることはない。自分では、その勢力圏からぬけだしたと思っている。桂離宮にたいする無理解も、平気で書けるようになった。芸術的な感受性という点で、背のびをすることも、ひところよりはよほど少なくなっている。
こうなると、かつての自分も、かなり冷静な目で見られるようになってきた。いったい、私の言動を拘束したあの権力は何だったのか。私は、どのような権力により操作されていたのか。そういうことに興味がわいてきた。
安直なヒロイズム気分をゆるしてもらうならば、現在の私は権力から脱出してきた亡命者である。そして、この本では、亡命者の立場から祖国の内情とその歴史を書いてみたいと思っている。
(『つくられた桂離宮神話』井上章一)