一代前の教皇ヨハネ・パウロ1世(在位1978年、俗名アルピーノ・ルチャーニ)は、就任からわずか33日後に不審死を遂げ、〔プリヴァータ・イタリヤーナ銀行事件を起こした〕シンドーナは獄中で、青酸カリという〔リキュール〕の混じった、湯気の立つコーヒーで毒殺された。ほかに、未解決の殺人事件も起きていた。銀行家ロベルト・カルヴィがロンドンの黒人修道士(ブラックフライヤーズ)橋〔=テムズ川にかかる橋〕の下で、息絶えた状態で発見されたのである。
こうしたスキャンダルが再発する事態はあってはならなかったし、もちろんいまもあってはならない。さもなければ、信者と神の声を広める教会との信頼関係にひびが入ってしまう。もしふたたび沈黙が破られたらどうなるだろう。「知らぬ存ぜぬ」という秘密厳守の態度と、内部の人間どうしの先入観がフィルターになって、いまのところは外から事実が見えにくいようになっている。もしその状況が変わり、バチカンによる経済活動の真実が一瞬でも明るみにでたら、どうなるだろうか。バチカンの役割と機能の正当性を問う声が高まり、イメージ回復にかかる代償は計り知れないものになるだろう。
(『バチカン株式会社 金融市場を動かす神の汚れた手』ジャンルイージ・ヌッツイ:竹下・ルッジェリ・アンナ監訳、花本知子、鈴木真由美訳)
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