意識と脳の関係性は、「
マインド・ボディ・プロブレム」と呼ばれる非常にやっかいな問題だ。今のところ、我々科学者には、物理化学的な神経系のはたらきと、主観的な私たちの意識感覚とのあいだをうまくつなぐような科学的な理論はない。意識の精神世界と、脳の物質世界とのあいだには、越えることのできそうにない巨大な谷がある。谷のこちら側には、物理の法則に従う、この宇宙で知られるかぎり最も複雑な器官である脳が存在する。そして谷のあちら側には、我々の経験、つまり、日々の生活で我々が見たり聞いたりするといった感覚や、
恐怖や
不安、
欲望や愛、退屈さといった感情、つまり主観的な意識の世界がある。(『
意識をめぐる冒険』
クリストフ・コッホ:土谷尚嗣、小畑史哉訳)