物理学や
化学は不変の実体という夢を追い続け、ほぼその夢を実現しつつある。翻(ひるがえ)って生物学をみれば、生物は物質と同じレベルの同一性を担っているわけではない。確かに、生物を構成する部品である水やタンパク質や
DNAは、さしあたって構造が確定した、とりあえずの同一性を保つ物質である。しかし、タンパク質やDNAそのものはもちろん生物ではない。生物の本質は物質とは独立の霊魂であるとの考えを採らなければ、生物は確かに物質のみで構成されている。しかし、たとえば細胞は、生きて動いている限り、決して構造が確定した物体ではない。ならば細胞とは何か。それは細胞を構成する物質(主として
高分子)間の関係性であると、さしあたっては考えるより仕方がない。(『
生物にとって時間とは何か』
池田清彦)