津波のスピードは、水深の平方根にほぼ比例して、深いところほど速く、水深4000mの深い海では時速約712kmと、まるでジェット機並の速度で四方に伝播(でんぱ)する。然し、そのスピードは、陸地が近づき水深が浅くなるにつれて、海ごと走って来た津波が海底の障害に突き当るため、急速に衰えてくる。それでも水深1000mで時速255km(秒速70m)、200mで時速160km(秒速45m)というから近海に来てからでも新幹線ぐらい、ついで普通の電車ぐらいのスピードで押し寄せて来る。
 水深が浅くなって津波のスピードが落ちて来ると、同時に津波の山と山の間がしだいに縮まり、前を進む波に、後ろから押し寄せて来る波が、つぎつぎに追いつき、覆いかぶさり、折り重なるような形になる。つまりはエネルギーが前後に圧縮される。
(『津波てんでんこ 近代日本の津波史山下文男