私は口笛だ。
 少年世一が日の出の力を借りて気随気ままに吹き鳴らす、へたくそのひと言ではとても片づけられない、切々たる響きの口笛だ。
 私は、けっしてきのうの延長などではない、未知なるきょうに向かって吹かれ、控えめな進行ではあっても確実に狂ってゆくこの世に向かって吹かれ、そして、人に拾われるまでの経歴が定かでない籠の鳥のために吹かれる。
(『千日の瑠璃 究極版丸山健二