アルキュタスプラトンの友人で、常勝将軍と称えられた軍人にして政治家でもあり、音楽天文学物理学の分野で優れた仕事をし、古代世界ではきわめて高く評価されたピュタゴラス派の学者だった。そのアルキュタスが、「しかし、宇宙の果てとは何だろうか?」と問いかけたのである。
 もしも宇宙に果てがあるなら、なんとかしてそこまで行き、そこから外に向かって槍を投げたとしたら、その槍はどうなるのだろうか? 槍はこの世から消滅するのだろうか? それとも壁のようなものにぶつかって、はね返ってくるのだろうか? その壁はどれぐらい厚いのだろうか? 壁の向こうはどうなっているのだろうか?
 アルキュタスは槍投げのパラドックスにより、宇宙に果てがあるとすれば厄介な問題が生じるということを示したのである。
(『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』青木薫)