石光氏の手記は、氏の自伝であると同時に、明治から昭和へかけてのわが国の側面史をも成している。なかんずく日露戦役は明治年間のわが国の直面した最大の出来事で、わが国は国を賭して、世界の強大国ロシアと兵火を交えたのであるが、その戦争が、わが国にとって、いかに苦しいものであったか。そのことがこの手記には、ありのままに語られている。それは決して連戦連勝などという、安易な言葉で尽されるべきものではなかった。その事実の知られる一事においても、この手記は、貴重な文献を成しているといってよい。(『明治人物閑話』森銑三〈もり・せんぞう〉)
石光真清