コミュニケーションの面から見れば、話しことばは、まずなによりも他者への働きかけです。相手に届かせ、相手を変えること。変えるといっても、行動を変えさせる、持っているイメージを変えさせるなどいろいろですが、とにかく変えることで、たんなる感情や意見の表出ではない。
ですから、話しことばがもっともよく発せられる場合といえば、自動車が来るのに気づかないで歩いている人に「アブナイ!」とどなるときなどはその典型で、こんなときは、からだ全体が単一の目標に向かって躍り上がり、知らないうちに大ごえが出ている、というわけです。
(『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴)