フランス人っていうのは、おかしいと思ったら一人でも闘う。
 それがフランス革命を起こしたこの国の伝統で、
 フランス人が一番大切にする気質です。
 1940年、わたしがドイツ軍に捕まった時、それはちょうど結婚した
 ばかりの時期でしたから、指に新しい結婚指輪をつけていたんです。
 で、それを見つけたドイツ兵は、無理矢理、指輪を指から盗ろうとした。

 もう頭にきてねぇ。一人でも闘おうと決心しました。

 捕虜になると、最初に顔写真を撮られます。
 ナチスの連中はたかだか証明写真だっていうのに、
 わたしの身体をカメラの前に置き、ものすごい力で両脇から押さえつけてきた。
 フランス人なら絶対こんな時、闘わなくちゃいけない。
 だから、わたしはシャッターが押される瞬間、カメラの前で目一杯
 舌を出してやったんですよ。……こんな風にね。
 もちろん殴られて、再度写真を撮られることになった。
 でもわたしは抵抗をやめませんでしたよ。
 何度も何度も、彼らが諦(あきら)めるまで私は舌を出し続けた。

 独裁とは一人でも闘う。

 小さなことかもしれませんが、
 それがフランス人の矜持(きょうじ)なんです。

(『この大地に命与えられし者たちへ』写真・文 桃井和馬