仏説以前の土着的な輪廻信仰、そして古人の心を真に支配していた土着的な言霊信仰などを想起するならば、この短い物語は、単なる怪異譚ではなく、超現実の存在証明の文章でもなく、土着信仰の強靭な力をわれわれのなかに喚起するために語られ、書きとめられたに相違ない、と私は感じるのである。この物語だけでなく、『遠野物語』や『山の人生』において著者(※柳田國男)が本当に語り伝えたかったのは、日常と怪異という差別以前の、知的な差別以前の、わが国土の精神の始原にほかならない、と私は確信している。(『死と狂気 死者の発見渡辺哲夫