十全に開発された性衝動と精神性は自己陶酔はしないのであり、情動のエネルギーと生命エネルギーが全身に伝導するのを必要条件としてこそ、開発された性衝動と言える。関係構築、意思疎通、相互関与。それだけが、自己陶酔的で小賢しい操作をする性の手管を治す治療法になる。だから、恋人たちが全身の伝導を経験したいと思っているのなら、性器の液体を交換するだけでなく、内密にしている孤独な術策、性的傾向、習慣を互いにあらいざらいさらけ出さなければならない。二人はタブーというタブーを捨てて、互いの目の前で最も内密な想像を表に出しきることが必要だ。それこそが密着の始まりである。というのも、現にもっている傾向をあらいざらい互いに教え合って、その内容のことで相手を貶めたり非難したりせずに、くつろいだ行為、思いやり、相手への検分に時間を費やすなら、充実した感情が湧き上がってきて、それまで自己閉塞と自己逃避に閉じこめられていたエネルギーが循環できることになるからである。二人がすべてをさらけ出し続けるなら、分離の感覚を解消する手段としての通常のオルガスムは、いよいよその必要がなくなる。全身に拡散した長時間にわたる生命力の伝導、深い思いやり、相互の密着が生じて、オルガスムの代用になるわけだ。(『エロスと精気(エネルギー) 性愛術指南ジェイムズ・M・パウエル:浅野敏夫訳)

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