これは、一見、大変に不可解なことだ。
夫婦の結び付きがより強い(アメリカ人の)彼らのほうが、他人行儀な我々に比べて、断然、離婚しがちであるのだ。
「じゃあ、夫婦の愛って、いったい何なの?」
と、初心者は思うことだろう。
お答えしよう。
夫婦の愛というのは、一種の無関心である。
お互いに見つめ合って、語り合って、肩を抱き合って、愛し合って、それで夫婦が成立しているのであるとすれば、会話がとだえただけで、視線がそれただけで、あるいは愛情が幾分冷めただけで、別れなければならない。
が、どっこい我々は別れない。
同じ電車の中で、別々に座って、不機嫌に黙りこんでいる我々は、決して別れない。
そういう、「別れないだけでいるだけの夫婦」が、日本中に山ほどいる。
素敵だ。
と私は思う。
(『「ふへ」の国から ことばの解体新書』小田嶋隆)