ここで、もう一つ、1920年代の特異性に影響を与えたと思われる「革命」に触れておかねばならない。
 それは照明革命である。それまでアメリカでは、照明用の油として鯨からとった油を使っていた。大西洋の鯨を獲りつくし、遠く北太平洋まで鯨を捕えに出かけなければならなくなった19世紀半ば頃には、鯨油の価格はバレル当たり100ドル以上もしていた。当時照明はたいへん高くついた。照明は大衆のものではなかった。
 それが、1860年代以降、石油から取れる灯油が使われるようになると、照明用の油の価格は、一挙に数十分の一に低下したのである。石油の需要は1860年以降驚くべき勢いで増大した。当時、石油はほとんどすべて灯油として使われていたのだ。したがって石油需要の増大は、価格革命によって、照明が大衆のものとなったことを示唆している。
 アメリカの大衆は、明るくなった夜をどのように利用したのだろうか。家族との団欒、あるいは隣人とのつきあい、しかし結局、テレビやラジオもない当時、人びとは明るくなった夜を次第に読書に利用するようになったのではないか。最初は聖書だったかもしれないが、だんだんと人びとの知識欲は旺盛になっていったと思われる。
(『「1929年大恐慌」の謎 経済学の大家たちは、なぜ解明できなかったのか関岡正弘

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