さて「ブラフマン」は、『アタルヴァ・ヴェーダ』においてたたえられる最高の諸原理の一つであった。「ブラフマン」とは、元来は「神聖な知識」、そしてその言語的表現としての讃歌・呪句を意味する語であった。讃歌や呪句には、神々を喜ばせ、また人間の願いをかなえさせる霊妙な力が宿っている。「ことば」が一種の霊力をもつという考えは、わが国の「ことだま」信仰にも見られ、インドでは早くから「ことば」が神格化されて、女神ヴァーチとなっている。やがて、祭式万能の時代を背景に、祭官の発する「ことば」の霊力が重要な意味をもつようになり、「ブラフマン」はこの霊力そのものとなった。そしてついには、それが宇宙の最高原理とみなされるに至ったのである。創造神ブラフマー(梵天)は、この最高原理が人格的に表象されたものにほかならない。(『世界の名著 1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人責任編集)
バラモン/ヒンドゥー教