ふたりの隊員たちは、特攻出撃を間近にひかえて、グランドピアノを探しまわったという。おおかたの学校にはオルガンしかなかった。めずらしく鳥栖の国民学校にグランドピアノがあると聞いて、彼らは三田川から十二、三キロの道のりを長崎本線の線路づたいに走るようにしてやってきたのだった。
ピアニストになることを夢見て学びつづけてきた青年にとって、リサイタルの一度もひらかず死ななければならないとは……。死ぬに死にきれない、無念なことであろう。今生(こんじょう)の訣別に思い切りピアノを弾きたい、という青年の思いが、公子には痛いほどわかる。
(『月光の夏』毛利恒之)
特攻隊